氷下待網漁(こおりしたまちあみりょう)

SDGs

北海道根室市の冬は厳しく、汽水の風連湖や、海でありながら巨大な砂州になっている野付湾などは凍ってしまいます。1月~3月ごろ氷の下の魚を捕るため、この地域では氷下待網漁が伝統的におこなわれています。

氷下待網漁は、凍った氷にチェーンソーで大きめの150cm×30cm程度の穴をあけ、そこから定置網を入れます。以前は氷を割る用の「マサカリ」で穴をあけていたそうです。氷の厚さは50cmになることもあり、マサカリで穴をあけるだけで一苦労だったそうです。

氷の下で網を広げるために、開けた大きめの穴から約5mごとに小さな穴を数か所あけます。そこから冷たい水に手を突っ込んで、棒などで網を広げていきます。網の長さは45mになるものもあるようです。仕掛けの網は魚が入ったら出にくい作りとなっており、魚が入るのを1日待ちます。

網を引き揚げると、コマイ(氷下魚)などが獲れます。風連湖ではニシンやチカ、ワカサギ、野付ではチカ、クロガシラ、スナカレイ、ガンズナゲ(ギンポの一種)、キュウリウオも獲れるようです。

獲れた魚のうち、漁師さんにとって不要な魚で、アマモを食べすぎるなど理由で自然に戻したくない魚は、氷の上に捨てます。魚は外気温が低いため見ている間にもゆっくり凍っていきます。その魚を狙って、オオワシやオジロワシ、カラスなどが集まってきます。漁師と鳥たちの昔からの風景です。

漁師さんのお話では、以前は氷下待網漁しか冬の間の収入源がなかったそうで、地域の人はみんな氷下待網漁をしていたそうです。今はホタテ漁などのほうが収入は良いそうで、凍えるような寒さの中で漁をする氷下待網漁をする人は減ってしまったそうです。野付では2021シーズン氷下待網漁を行っていたのはわずか5か所のみだったようです。

2021年3月初旬、野付半島のネイチャーセンターのツアーで氷下待網漁の体験に参加させていただきました。(ツアー代金はかかります。)無料で防寒着、長靴、手袋を借り、防寒対策をしっかり行い参加しました。気温はマイナス10℃前後でしたが、強風で体感温度はもっと低く、カメラを撮る手が手袋をしていても痛かったです。

標津町に住む若い獣医さん(牛を専門にしている)も参加しており、ツアーは全4名でした。最初に氷下待網漁の概要のレクチャーを室内で受け、その後スノーモービルにつながれた「そり」に乗り込み、15分ほど引っ張られ、トドわらの沖の氷下待網漁の漁場に到着します。氷の上は平たいですが、完全に水平ではなく、痛くないようにそりを引っ張っていただきました。

漁場につくとすでに漁師さんが準備を始めており、網を引き揚げ始めていました。ガイドさんから現場でレクチャーを受けている間も、漁師さんは引き揚げ作業を続けます。10分程度で網が上がり、コンテナ1杯程度の魚が獲れました。コマイ、チカ、スナカレイ、ガンズナゲ(ギンポの一種)、キュウリウオなどが入っていました。ガイドさんに「キュウリウオと呼ばれる魚はキュウリの匂いがする。」と言われたので嗅いでみたのですが、風と寒さによる鼻水で、ニオイはあまりわかりませんでした。ガイドさんによると魚の生臭さがキュウリっぽいとのことでした。

漁師さんは、不要な小さな魚やガンズウオなどを氷上に捨てます。それを目当てにオオワシやオジロワシが魚を獲りに来るところを見たかったのですが、風が強く、視界も悪く、猛禽類は全く姿を現しませんでした。コンテナにいれられた魚は、最初は元気よく動いていましたが、寒さのため数分で動きが止まり凍ってしまいました。

漁場にいたのは30分程度。帰りもスノーモービルで15分ほど揺られ、サービスで蛇行走行などをしていただき、また三本松に作られたオジロワシの巣の案内もしていただき、野付ネイチャーセンターに戻りました。

ネイチャーセンターのレストランではコマイを焼いたものをいただきました。漁師さんが漁から戻ってきて、「コマイをもってかえって良いよ。」と言ってくれました。旅行中なので持って帰れませんでしたが、ありがたいお話でした。

氷下待網漁は、風連湖や野付では「こおりしたまちあみりょう」と呼ぶようですが、厚岸や釧路では、「ひょうかたいもうりょう」と呼ぶようです。

漁の様子

氷の下から網を引き揚げている様子

氷にあけた150㎝×30㎝の穴

チカ、クロガシラ、スナカレイ、ガンズナゲ(ギンポの一種)、
コマイ、キュウリウオ等の魚たち

焼いたコマイ